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所用時間5min
2015.03.19

脅威に晒されるハワイの植物

ハワイの原生自然を脅かす外来種の侵入

  • ハワイ在来の植物はほとんどが固有種です。その理由は、ハワイ諸島が絶海の孤島だからです。何千年、何万年に一度というごくわずかな確率で少しずつハワイに住みついた植物は、他のどの大陸や島とも異なる独自の植物体系を築き上げました。
     
  • しかし、とくに西欧社会との接触後、大量に持ちこまれた外来の植物によって、在来の植物環境は大きな影響を受けました。
     
  • ハワイの固有植物は、多くが個体数を減らしています。しかし、よく知られた植物は、各島の植物園などで観察できます。


絶滅の危惧に瀕している在来の植物


ナショナル・ジオグラフィック誌のハワイ特集で、ハワイは全米の500分の1弱の面積しか占めていないにもかかわらず、絶滅の危機に瀕している動植物は50%を占めると報告しています。これは全米平均の250倍にもなる深刻度です。


なぜ、小さなハワイ諸島はこれほど深い問題を抱えているのでしょう? それはハワイの立地に関係があります。ハワイは海上に姿を現して以来、一度も他の大陸や島と地続きになることはありませんでした。古い島では数百万年以上もほぼ独立した自然を維持してきたのです。


しかし、ポリネシアの人々がハワイ諸島に移住するとき、およそ20数種の植物を生活必需品として持ちこみました。また犬、豚、鶏、そしておそらくは鼠を食糧として持ちこんだ結果、安定していたハワイの自然は徐々に崩れていきました。この動きは、ハワイが王国となると飛躍的に加速されました。世界と交わるようになってから今日に至る200年の間に、おびただしい数の外来種がハワイに定着し、在来の植物に深刻な影響を与えたのです。

マウナ・ケアの冷涼な気候に育つママネ

環境保護の難しさ

外来植物のすべてが環境に悪影響を与えるわけではありません。野生化することなく、定まった場所に分布するのであれば問題は少ないですが、繁殖力が強く、在来の植物を駆逐するような植物は有害です。このような有害植物が、カウアイ島のノウノウ山をほぼ覆いつくし、標高4000mを超えるハワイ島マウナ・ケアの半分の高さまで侵出しているのです。


なぜハワイの植物は本土と比べて脆弱なのでしょうか? それは外来種が侵入するまで、何十万年、あるいは何百万年に渡って安定した環境で生きてきたからです。外敵の侵入が少なく、環境が安定していると、植物はトゲを持ったり、毒をもったりする必要がなく、必要以上に大きくなる必要がなくなります。与えられた環境が特定の在来植物に適していれば、その植物は同じ場所、同じ受粉方法で生命の営みを続けます。裏を返すなら、その場所の環境が変わった場合、あるいは受粉を媒体するものが変わった場合は、変化に適応できない場合が多いということになります。

ハレアカラ国立公園に点在するアーヒナヒナ

たとえばママネというハワイ固有のマメ科植物は、冷涼で、比較的乾燥した土地に分布します。ハワイ諸島で冷涼な場所は高度の高い場所ですから、動物に捕食されにくい環境と言えます。そもそもハワイ諸島に在来の哺乳類はコウモリとアザラシしかいませんから、捕食される心配は皆無でした。しかし、人が住みはじめ、分布域の一部が伐採されたり、火事が起きたりすると、生育数は減少します。また、ママネの実だけを食べて生きてきたパリラという鳥はママネと運命共同体ですから、やはり減少します。ママネにとっては受粉を媒介してくれる唯一の存在なので、パリラの減少はママネの減少に直結するのです。


今日、ママネは有害動物や人間社会の拡張に加え、山火事などの影響もあって絶滅の危機に瀕しています。これは同時にパリラが絶滅の危機に瀕していることでもあります。国や州、自治体、環境保護団体はさまざまな活動を通じてママネの保護繁殖に努力していて、少しずつですが生育環境は復元しています。しかし、パリラが増えてくれないと、人が受粉を行ってやらなければ繁殖できないことになりますから、この鳥の保護繁殖も同時に行っています。

 

絶滅危惧を乗り越える

絶滅を危惧されている植物はママネに限りません。ハワイ固有の植物のうち、半分近くが危機に瀕しているのです。いずれの植物もママネと同様、安定した受粉の媒介者や気候、土壌などがたとえひとつでも変化すると、致命的な影響を受けます。

オヒア・レフアの蜜を吸いに来たアパパネ

  • 近藤 純夫
    Sumio Kondo
    担当講師

    エッセイスト、翻訳家。写真家。 ハワイ火山国立公園アドバイザリースタッフ。フラ・ミュージアム(スパ・リゾート・ハワイアンズ)アドバイザー。アロハ・カワラ版(パシフィック・リゾート)アドバイザー。国内外で各種のカルチャー講座を主催。ハワイ関連の著書に『フラの花100 』(平凡社)、『歩きたくなるHawaii』(亜紀書房)、『アロハ検定オフィシャル・ブック』(共著・ダイヤモンド社)、『フラの本』(講談社)、『ハワイアンガーデン』、『ハワイ・ブック』、『ハワイ・トレッキング』、『ハワイ諸島の自然』(以上、平凡社)、『おもしろハワイ学』(JTB)、『裏ハワイ読本』(共著、宝島社)など。訳書に『イザベラ・バードのハワイ紀行』(平凡社)、『ナショナル・ジオグラフィック 荒ぶる地球』(岩波書店)など。フェイスブックで毎日ハワイの小咄と写真を発信している。 「Facebook」https://www.facebook.com/kondo.sumio

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