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2016.03.25

アウトリガーカヌー

アウトリガーカヌー

  • アウトリガーカヌーは、ポリネシア人移動の歴史と深く関わっていました

アジアの海域から太平洋、インド洋の島々に広く分布する、浮の張り出したカヌー

クック船長が発見する前のハワイで、島々を行き来する手段や漁に使われていたのはカヌーでした。ハワイのカヌーは、双胴のものと、進行方向左側に張り出した浮がついているものがあり、外洋の大波の中を漕いでも安定して進める構造になっています。カヌーはハワイ語でヴァア(waʻa)、浮はアマ(ama) と云います。

ハワイのアウトリガーカヌーの様式(ビショップ博物館の展示物より)

ワイキキでは、沖から押し寄せる長い波に乗ってアウトリガーカヌーが何艘も、ロングボードのサーファーと速さを競っているかのように浜に向かってきます。アラワイ運河では、カヌーの練習風景をよく見かけます。

現在、スポーツや観光用に使われているアウトリガーカヌーはグラスファイバー製のものが多いようですが、昔の物はもちろん木製でした。大木の幹を削りカヌーを製作する専門家「カフナ カライ ヴァア」(kahuna kālai waʻa) の人達が深い森に分け入り、カヌーに適したコアなどの大木を探し、森の神の許しを得て木を切り出してきます。エレパイオ(ʻelepaio) と云う鳥がとまった木がカヌーには最適だ、との云い伝えも残っています。浮の部分にはハウやウィリウィリ等の軽い木材が使われ、鉄釘の無かったポリネシアですので、ココナツ(niu) 等の繊維を編んで作ったロープでしっかりと固定していきます。帆をつけたカヌーもありましたが、帆はハラ(hala、英語ではパンダナス)の葉で作りました。

1778年頃 John Webber が描いた、ニイハウ島付近を航行するハラの帆を付けたアウトリガーカヌー(ビショップ博物館、ハラの特別展示より)

カヌーはハワイ語でヴァア(waʻa) ですが、タヒチ語でもヴァア(vaʻa)、マオリ語ではワカ(waka)と云い、言語からもポリネシアの島々全体で共通する海洋交通手段であったことが推測出来ます。実は、その共通項はポリネシアに留まりません。アウトリガーカヌーの分布は、オーストロネシア語族の地域と一致すると云われています。

ポリネシア語は、オーストロネシア語族と呼ばれる同系統の言語の集まりに属し、同一起源を持つ言語です。その一番古い形は台湾の原住民の言葉に残されていると、歴史言語学者は考察しています。この語族の言葉は太平洋からインド洋に広く広がり、南端はマオリの住むニュージーランド、東端はポリネシア語ではラパ ヌイと呼ばれるイースター島にまで達し、ポリネシアの島々全てを含む範囲に広がっており、その北限は台湾、そして西端は何と、アフリカ大陸近くのマダガスカル島まで伸びています。オーストロネシア語族の言葉を話していたマレー半島の人々がインド洋を西へ移動して、マダガスカルまで到達していたためで、この広範囲の大洋が、アウトリガーカヌーが使われている海域と合致します。

現在では、陸上を車で走る方が海上を船で移動するより、早くて安全と感じるかもしれませんが、今から数千年も前の状況を考えてみると、危険な動植物の生息する密林の中を進むより、小舟であっても川や島伝いに海を移動した方が、より安全だったに違いありません。晴れた日に遠方に陸地や島が見えれば、そこまで丸木舟やカヌーでの移動は可能であったでしょうし、渡り鳥が飛んでくる海の向こうには陸地が在ると考えたとしても、ごく自然に思われます。

木を切り抜いて作ったアウトリガーカヌーや、双胴船を屈指して太平洋の大海原を渡ってハワイに到達したポリネシアの人達。アウトリガーカヌーは、太平洋からインド洋にかけての移動と漁の重要な手段であったと云えます。

1890年頃のフィージーのアウトリガーカヌー(ビショップ博物館の展示物より)

付帯的な情報・発展情報

大木を切り倒しカヌーを造る時にも使われた道具は、ポリネシアの島々に共通して、斧(ax)ではなく、ちょうな(adz)であったと云われています。

  • 浅沼 正和
    Masakazu Asanuma
    担当講師

    【インタビュー動画あり】
    ハワイ在住通算27年目を迎える。2001年からビショップ博物館で日本語ドーセントのボランティアを始め、2003年に同博物館の会員組織を代表する Bishop Museum Association Council のメンバーに選出され、21年間務めた。他に、ハワイ日米協会理事やハワイ日本文化センターのBoard of Governor 等を務め、日布間の文化交流活動に従事している。海外の訪問国と地域の数は95箇所に及ぶ。

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