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2014.10.21

ハワイアンキルト

今に生き続ける手縫いのアート、ハワイアンキルト

ハワイアンキルトの歴史はあまり古くありません。1820年代に、ニューイングランドからキリスト教を広めるため、宣教師が来布。その妻たちがハワイの女性たちに裁縫を教え、パッチワークキルトが伝えられたと言われています。洋服が伝えられる前は、カパという木の皮で作られた生地のようなものを、洋服代わりに着ていたと言われますが、実は、ほぼ裸状態のハワイの人を見て、裁縫を伝えたとも言われています。

当時、アメリカ本土で存在していたパッチワークキルトは、小さな端切れを、幾何学模様につなぎ合わせるピースワークに、綿と裏地を付け、3層をキルティングしたキルトが主流でした。ハワイは気候的に暖かさを重視する必要性がなかったこと、生地が存在しなかった事で、ピースワークができなかったことなどが、現在のハワイアンキルトの原型を作ったのではないかと言われています。ハワイアンキルトの100%確かな始まりという書籍が残されてないので、はっきりといつの頃から、今のハワイアンキルトが主流になったかは不明です。

マノアの森
design & quilt by Anne’s Hawaiian Quilt

 伝統的なハワイアンキルトには3つの原則があります。1つ目は2色の無地の生地を使うこと。2つ目は雪の結晶のようなシンメトリーのデザインを使う事。そして3つ目は波の波紋のようなエコーキルトを施すことです。

無地の生地ですが、昔の資料によると、黒はタブーだったといいます。諸説ありますが、多くのハワイアンの間で、黒は邪悪な悪霊の色と見なしていたようです。実際には夜キルトを作る時には見えづらい、または扱いが難しいなどという理由もあったようです。

生地は薄い色の下地に、濃い色のデザインが多く作られています。雪の結晶のようなシンメトリーのデザインは8折りされ、8枚を一緒にカットしたものを使います。そしてデザインの周りを何重にも輪取っていくキルティングを、エコーキルトと言います。キルトが伝えられた当時は、今のエコーキルトの他に、幾何学模様にキルティングすることもありました。格子や四角形のキルティングを、デザインの上や下に施した古いキルトも残されています。この幾何学模様は、一説によると、ハワイのカパの幾何学模様を表現しているとも言われています。

当時は生地も貴重だったこともありますが、キルトには必要不可欠だったキルト芯(綿)の入手の難しさも、書かれています。キルト芯が手に入りにくかったため、髪の毛を使ったり、家で綿を栽培したり、羊を飼い、ウールを使ったとまで記されていて、当時の女性のハワイアンキルトへの情熱を伺えます。一説によると、ウールは洗いやすく、コットンより需要があったようです。

カウアイ島グローブ・ファーム・ミュージアムに貯蔵されているアンティークキルト
Quilt provided by Grove Farm Museum Kauai

シンメトリーデザインのハワイアンキルトの他に、フラッグキルトというハワイの州旗のデザインを入れたキルトもあります。1893年、当時のリリウオカラニ女王が王権を奪われ、ハワイ王国が滅びる時期、ハワイの国民が自らの国のためと、自分達のアイデンティティーの為に、たくさん作りました
またクィーンズ・キルトとしても知られるリリウオカラニ女王がイオラニ宮殿に幽閉されている時に作り始めたキルトでも知られるよう、クレイジーキルトという種類もあります。

 

ハワイアンキルト作りはすべて手作業なため、製作に大変長い日数がかかります。それにより、完成したキルトには作り手の思いが入ります。この思いを後世に残さないように、作り手が亡くなった時には、キルトと共にお棺に入れられたり、焼かれたと言われています。そのため、アンティークキルトは存在が少ないとされます。ハワイの博物館や美術館はハワイアンキルトのコレクションを多く持っていますが、寄付や、海外やアメリカ本土から買い戻したものも多いといいます。生地が100年以上経ち、朽ち始めているものも多いです。博物館によっては、この貴重なキルトを予約制で見せてくださるところもあります。ハワイアンキルトの歴史はあまり古くはありませんが、一針一針縫う作業は昔も今も変わらず、キルターたちの愛情と根気強さが、ハワイアンキルトにはっきりと表現されています。また、暖かさを必要としなかったハワイでは、キルトは実用品ではなく、手法の細かさからもアートと示されています。そして日常に使うものとしてではなく、特別な日のベッドカバーや、壁掛けなどの美術品として、使われたと言われます。嫁ぐ娘のため、生まれた孫のためにと手作りのアートは代々伝わっています。

クィーンエマのサマーパレスのコレクションのフラッグキルト
photo provided by Queen Emma’s Summer Palace  

リリウオカラニ女王作「クィーンズ・キルト」
photo provided by Iolani Palace

ハワイに布地を初めて紹介したのは、キャプテンクックとも言われています。ハワイには生地らしいものと言えば、ワウケの樹皮を叩いてなめし、模様を付けたタパ(カパ)か、パンダナスの葉を干して編んだラウハラマットなどでした。1820年以降、ハワイに裁縫が伝わってからは、たくさんの種類の生地がハワイに入って来たようです。木綿、絹、ウールなどが主だったので、ハワイアンキルトにも、そのような生地が使われています。 中でも木綿は、一番多く使われていたようで、あまり色のなかった時代に、白地の木綿に、ターキーレッドと言われた、真紅の赤のアップリケキルトが盛んに作られたようです。また王室では、ロイヤルカラーである赤と黄2色を使われたと言われています。

 

伝統的なハワイアンキルトのデザインはシンメトリックの上下左右対象ですが、題材となったのは主に自然の植物、花、葉、実などでした。他には、歴史的な出来事、宗教的な要素、美的なもの、抽象物などもデザインには使われました。反対にタブーとされたのは、四足の動物や人間などのデザインです。これらはデザインに描き、キルトをしていくうちに、魂がキルトに宿ってしまうとされ、縁起が悪い物としての対象となりました。

 

デザインの周りを輪取るように幾重にも続くエコーキルトは、ハワイが海に囲まれた島であり、波の波紋を表現したキルトを続けるということのようですが、幾何学の四角や三角、ひし形などのかたいキルトラインから、柔らかい、終わりのない波のようなエコーキルトへと移行していった過程は、文献にきちんと残されているものではなく、ハワイの人々からの言い伝えで現在のハワイアンキルトになったのではないかと伝えられています。

 

藤原“アン”小百合著の「ハワイアンキルト、パターンとステッチの魅力」誠文堂新光社

関連資料
Sayuri “Anne” Fujiwara. Hawaiian Quilt “Charm of Patterns and Stitches”. Seibundo Shinko Sha, 2014
Akana, Elizabeth A. Hawaiian Quilting: A Fine Art. The Hawaiian Mission Children’s Society, 1981
Brandon, Reiko Mochinaga & Woodard, Loretta G.H. Hawaiian Quilts Tradition and Transition. Honolulu Academy of Arts, 2003
Faye, Christine, Lovett, Margaret, Wichman, R.F. Kauai Museum Quilt Collection. A Kauai Museum Publication, 1991
Hammond, Joyce.D. Tifaifai and Quilts of Polynesia. University of Hawsaii Press, 1986
Jones, Stella M. Hawaiian Quilts. Daughters of Hawaii, 1973.
McMorris, Penny. Crazy Quilts. E.P. Dutton, Inc. 1984
Singletary, Milly. Hawaiian Quilting Made Easy. Sunset Publication,s 1980
Stewart, Charlyne Jaffe. Snowflakes in the sun. Wallace Homestead Book Company, 1986
Stevens, Napua. The Hawaiian Quilt Service Printers, 1971

  • 藤原 小百合 アン
    Anne Sayuri Fujiwara
    担当講師

    【インタビュー動画あり】
    アーミッシュキルトの盛んなアメリカ・オハイオ州の高校に留学中にアメリカン・パッチワークを習得。メリーランド大学学士号取得。その後ハワイに移住し、マウイ島のハナ・マウイ・ホテルで出会ったハワイアンキルトのベッドカバーに一目惚れをし、ハワイアンキルトを始める。2001年9月11日、ニューヨークで起きた同時多発テロ事件の犠牲者とその家族への追悼キルト、『千羽鶴 フレンドシップキルト』を全国のキルターとともに完成させ、2009年9月、9.11メモリアルに寄贈。2011年7月、ハワイで毎年開催される「キルトハワイ」において、オリジナルデザインの「マノアの森」キルトがグランプリ受賞。ハワイ、日本でのレッスンなど、伝統的なハワイアンキルトを広げるため、日々奔走中。15年以上、パシフィックリゾートの「キルトパラダイス」(http://www.holoholo.world/kawaraban/category/quilt/)を連載中。 日本でハワイアンキルト本を数冊出版。2006年よりホノルルフェスティバルにおける伝統的ハワイアンキルト展を毎年開催。2013年よりイオラニ宮殿の日本語ドーセントのボランティアを始め、現在ハワイ在住31年目。

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