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所用時間5min
2018.11.01

古代ハワイのヘイアウ

古代ハワイの究極の聖域


日本語で一般に、神殿や寺院などと訳されることが多いヘイアウ。ですが古代ハワイでのその存在は、日本でいう神社仏閣とはずいぶんニュアンスが異なっていました。庶民が気軽にお参りに行く場所というより、きわめて重要な宗教儀式の場であり、王族とカフナ(神官)以外は立入禁止のヘイアウや、女人禁制のヘイアウもたくさんありました。ハワイ各島におびただしい数のヘイアウがあり、たとえばハワイ島だけでも150以上のヘイアウ跡が見つかっています。

祀る神によって様々なヘイアウがあり、主なものに、戦いの神クーに捧げられた戦勝祈願のためのヘイアウと、豊穣と平和の神ロノに捧げられたヘイアウの2つがあります。細かなデザインはそれぞれですが、典型的なヘイアウは石造りの土台に加え、カフナが祈祷を捧げる建物、神のお告げを受けるための塔、神像、供物を捧げる塔、太鼓を置く小屋などがあり、木の柵で囲まれていました。

ハワイ島コハラにあるプウコホラヘイアウ。カメハメハ大王が戦勝祈願のため建てたヘイアウでクー神を祀っている


厳密な決まり事にのっとって建設

ヘイアウ造りは厳密な決まりや神託に基づいて進められ、ヘイアウの種類によって建築素材まで決められていました。それがクー神のヘイアウなら島や地域を代表する高位の王族だけが建設でき、人身御供が捧げられ(人身御供の捧げられたヘイアウはルアキニヘイアウと呼ばれます)、建築に使われる木材は必ずオヒアの木。

建物の屋根はロウルという種の椰子の葉と、ウキの草と決まっていました。そして奉献式での祈祷はまずカフナと王族が10日間、続いて王族だけが3日間祈祷。もし神の承認が得られないと感じたら、これを何度も繰り返したそうです。

一方、ロノ神のヘイアウに使う木材はラマの木で、屋根はティーリーフの葉。位の低い王族でも建設でき奉献式での祈祷も短めと、クー神のヘイアウに比べ儀式も比較的ゆるめでした。

ハワイ島カイルアコナにあったアフエナヘイアウ。16世紀に大酋長ウミが建て、1812年にカメハメハ大王が再建した
(Photo Courtesy of Hawaii State Archives)


修行場を兼ねたヘイアウも

そのほか、癒しを目的としたヘイアウや雨乞いのためのヘイアウ、航海術のヘイアウやサーフィン、漁業、カヌー造り、フラのヘイアウなど、それぞれの分野を司る神々に捧げられた、実に多様なヘイアウが存在しました。またヘイアウの中には特定の技術を教える、学校の役割を兼ねたものも。

いくつか例を挙げると、オアフ島アイエアにあるケアイヴァヘイアウは、カフナが常駐して癒しの技術を弟子に教えるほか人々を治療する、学校と病院のような場所でもありました。同様にオアフ島ワイアナエのクイリオロアヘイアウは、航海術を学ぶ場。カウアイ島ハナレイのケアフアラカヘイアウは、フラの修行場でもありました。

以上のような大がかりなヘイアウとは別に、庶民が祈りを捧げる祭壇のような場所も点在。たとえば各家庭には、ポハク・オ・カネ(カネの岩)と呼ばれる縦長の岩の祭壇が。また海沿いでは漁業の神に捧げられる祭壇コアが。さらには山越えの要所など各地に、道程の安全を祈るための簡単な祭壇も設けられていました。

フラの修行場でもあったカウアイ島のケアフアラカヘイアウ


ヘイアウ破壊令の影響とは

かつてはハワイ各地で神聖視されていたヘイアウも、今では廃墟化。ごく一部が後に復元され、往時の威厳ある姿を留めています。これはカメハメハ大王の死去した1819年、カメハメハ2世と義母カアフマヌ王妃の2人が古代宗教を廃し、ヘイアウ破壊令を出したためです。

古来の宗教を禁じた理由には諸説ありますが、カメハメハ大王の妻の一人だったカアフマヌは野心的な女性で、宗教上の決まりから発する多くのタブーに縛られるのを嫌ったためとも言われます。ある種のヘイアウには女性は入れないなど、カメハメハ2世の摂政として国を治め始めたカアフマヌにとって不都合な決まりが、当時のハワイにはたくさんありました。そのためハワイ中のヘイアウが破壊されたという見方があります。

カヌー造りに捧げられたケアラコヴァアヘイアウ跡(カイルアコナ)は一部が復元されている


そんなこともあり、今日私たちが見る大部分がヘイアウが廃墟化しているわけですが、今も昔も、ヘイアウがハワイの人々にとって大変な聖地である事実は変わりはありません。今なお人々はヘイアウを訪れ、祈りや供物を捧げていることを、知っておきましょう。

またヘイアウは、日本でよく言われるような「そこに行けばご利益が得られる、エネルギーが授かる」といったパワースポットとは異なります。古来、多くの人の祈りと想いが交錯した場であり、前述のように、人身御供が捧げられたヘイアウも多いのです。

そういった意味で、ヘイアウは神社や寺院というより、霊場といったニュアンスこそしっくり来るかもしれません。ヘイアウ=パワースポットと安易に考えず、どうぞ以上のようなヘイアウの重要性を理解したうえで、礼儀を持ってヘイアウを訪れてほしいものです。

(冒頭のイメージ画像=Photo Courtesy of Hawaii State Archives)

  • 森出 じゅん
    Jun Moride
    担当講師

    【インタビュー動画あり】
    オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動する傍ら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。イオラニ宮殿日本語ドーセントも務める。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニー・マガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社刊)、「Hawaii 神秘の物語と楽園の絶景」(パイインターナショナル)がある。
    森出じゅんのハワイ不思議生活 http://blog.goo.ne.jp/moridealex

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