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2021.11.24

フラの誕生

繰り返しますが、フラは神々に捧げる踊りであり、神聖なものだったので、選ばれた者だけが踊ることを許された時代がありました。踊り手はコア(戦士)としてウーニキを修めた男性が踊るものでした。

やがて、戦闘訓練を経てウーニキを修めた者とは別に、フラを専門とするコアも出現するようになりました。選ばれた男たちは、ハーラウ・ルア(ルアの施設)に入り、戦士のなかでもとくに選ばれた者が神々に捧げるヘイアウでの踊り手となりました。秀でた身体能力を持つ者だけが神々に捧げる踊りを舞ったのです。もっとも権威あるクム・フラ(カフナ・クム・フラ)は、コアの師を意味するオーロへ・ルアと同じ地位にあったとされます。

オーロへ・ルアと同じく「熟練者」を意味するカフナというハワイ語は、パー・ルアから誕生したのかもしれません。今日、クム・フラと呼ばれるフラの師は、当初カフナ・クム・フラと呼ばれました。

アリイやカフナを筆頭に、人々が神に祈りを捧げる背景には、ハワイ諸島の過酷な自然環境だけでなく、多くのアリイたちによる戦いの歴史があったと言えます。ジェスチャーとしての体の動きは、祈りのために特化したというより、戦いを様式化し、これを戦勝祈願としての祈りに付け加えた可能性があります。

ジェスチャーは単なる形態模写ではなく、研ぎ澄まされた動きとして表現されました。前述したように、その背景にはコアの存在がありました。ヘイアウのなかでの特別な踊りはルアとの関わりを持ちつつ、やがてフラとして独自の道を歩みはじめたのです。
 

フラの女神


以上の話の流れを考えるならフラの神がなぜ女神ばかりなのかという疑問が生じるかもしれません。ハワイ島では火の女神ペレ、またはその末妹であるヒイアカがフラの女神とされます。ペレは姉のナーマカオカハイとの戦いに勝利した際にフラを舞ったという説があり、ヒイアカは親友である人間のホーポエから伝授されてフラの祖となったという説があります。また、モロカイ島ではカポ(カポウラキナウ)が人間に憑依してオリを唱え、フラを伝えたとされます。このカポは妹のケヴェラニに命じ、フラ・ キイと呼ばれる物まねのフラを舞わせたことをきっかけに、ニイハウ島においてはケヴェラニがフラの女神であるという説もあります。同様にカウアイ島では、ラカがフラの女神とされます。

これとは別に、ハワイの創世神話を説いた『クムリポ』のなかで、世界を創造した神々が、腕や足の動きに合わせてオリを唱えたと伝えられています。オリも踊りもフラの2大要素であることから、こうした神々の行為が最初のフラに関する言及だという説もあります。ここで女性神の伝説に話を戻しましょう。ハワイには以下の神話があります。

ハワイの島々には、男性と女性の2人の「踊る神」が住んでいましたが、男性神はやがて島から姿を消し、女性神のラカだけが残りました。ラカはハワイの人々に自分の踊りを教えることに決め、その結果、フラが誕生したという話です。

別の説によると、ハワイ諸島の地下深くに3人の女神が住んでいて、それは火の女神ペレ、踊りの師匠ラカ、踊りの実演者であるヒイアカでした。ヒイアカはペレの前で踊り、ラカは踊りを教えた報償に供物を受け取りました。ハワイの人々にとり、フラはこの3人の女神の物語を表現したものだという説です。

重要な点は、これらの神話には歴史的な背景があるということです。例えばラカは、ハワイにおいてはフラの女神であるとともに森の女神でもあります。この背景には、タヒチやツアモツ諸島、マオリなど、ポリネシアに広く伝わる神話があります。ラカの前身はラタという、森を司る男性神であり、彼の物語のなかには、ハワイの神話にも登場する多くの神々が登場します。さらに森の木を切り倒してカヌーをつくろうとしたときにそれを邪魔された話など、カウアイ島に残るメネフネ伝説に形を変えてハワイ文化に引き継がれた物語もあります。

前述したように、ハワイ諸島ではハワイ島やマウイ島で活発な火山活動がありました。これは、彼らの暮らしにおいて自然の最大の脅威でもありました。このことから、ハワイに独自の神である火の女神ペレ伝説が誕生します。そしてこのペレに連なるように、ヒイアカが描かれ、カポやケヴェラニが描かれます。確証はありませんが、おそらくラカはハワイにおいても当初は男性神だったのでしょうが、火の女神ペレに連なるこのような流れのなかで、フラの祖が女性神として描かれるようになったと思われます。

今回のお話に関連する書籍を紹介します。いずれも英語ですが、興味のある方はご一読ください。
  • 近藤 純夫
    Sumio Kondo
    担当講師

    エッセイスト、翻訳家。写真家。 ハワイ火山国立公園アドバイザリースタッフ。フラ・ミュージアム(スパ・リゾート・ハワイアンズ)アドバイザー。アロハ・カワラ版(パシフィック・リゾート)アドバイザー。国内外で各種のカルチャー講座を主催。ハワイ関連の著書に『フラの花100 』(平凡社)、『歩きたくなるHawaii』(亜紀書房)、『アロハ検定オフィシャル・ブック』(共著・ダイヤモンド社)、『フラの本』(講談社)、『ハワイアンガーデン』、『ハワイ・ブック』、『ハワイ・トレッキング』、『ハワイ諸島の自然』(以上、平凡社)、『おもしろハワイ学』(JTB)、『裏ハワイ読本』(共著、宝島社)など。訳書に『イザベラ・バードのハワイ紀行』(平凡社)、『ナショナル・ジオグラフィック 荒ぶる地球』(岩波書店)など。フェイスブックで毎日ハワイの小咄と写真を発信している。 「Facebook」https://www.facebook.com/kondo.sumio

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