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ハワイの歌5 『カメハメハ三世の歌』
カメハメハ三世の歌
ハワイの歌「メレ」には「メレ・イノア」というカテゴリーがある。特定の人物に捧げる歌のことをいう。メレ・イノアの中でも特別な、ハワイ王国の王族たちに捧げられたメレを紹介する。
カメハメハ三世をたたえる歌 Mele Hānau nō Kauikeaouli
カメハメハ二世(リホリホ)の英国滞在中の病死によって、リホリホの弟カウイケアオウリが王位を継ぎ、カメハメハ三世となった。ただし、まだ10歳足らずのカウイケアオウリに代わって実権を握ったのは、引き続き摂政の地位「クヒナ・ヌイ」を名乗ったカアフマヌ王妃だった。カメハメハ三世が実質的な君主となったのは、王位継承の年から14年を経た1839年からとなる。
カメハメハ三世の特筆すべき点のひとつに、ハワイ王国史上最長期間(1825年〜1854年の30年弱)王位に付いていたことがあげられる。カメハメハ一世が築いた専制君主国ハワイは、カメハメハ三世の時代に立憲君主国へと変貌を遂げた。首都をマウイ島ラハイナからオアフ島ホノルルに遷都し、憲法を制定、宗教の自由化(キリスト教の広がり)、土地所有権を認めるなど、ハワイを急速に近代化させた三世は、同時に疫病による先住ハワイアン人口激減や西洋諸外国勢力との摩擦などの問題と直面しなければならなかった。
カメハメハ大王の次男として生まれたカウイケアオウリの誕生を記念するチャントが存在する。「Mele Hānau nō Kauikeaouli」という今に歌い継がれるそのチャントは、死産で生まれた彼の命を蘇生させるために唱えられたといわれる。そしてそれは成功、未来の王は一命をとりとめた。
O hānau a hua Kalani
(王族の子が生まれた)
という一行に始まるチャントは、その子が生まれるに至るまでに、まず地球が生まれ、その上に夜が現れ、その下に島が生まれ、その上に雲が生まれ、その下に山が生まれ、その上には太陽が現れ、その下には海が生まれ、その上にはクー神と他の神々が現れ、その下にハロアが生まれ人類の祖先となり、その子孫としてカメハメハが生まれ、カメハメハの子としてリホリホが生まれ、ここにカウイケアオウリが生まれた、と135行に渡って伝える長さも内容も壮大なもの。
カメハメハ三世と関連付けられた歌のひとつに「E Nā Kini」がある。ハワイ王国のモットーとして伝えられる「Ua mau ke ea o ka ʻāina i ka pono」という言葉は、カメハメハ三世の名言として知られる。「大地の命は正義のもとに永遠に守られた」と訳すことができるこの言葉は、カメハメハ三世時代にハワイを脅かした諸外国勢力のひとつ、フランスのクーデターによって一時的に奪われたハワイ国自治権を取り戻したときに、王がスピーチで語った言葉。この名言を歌詞に取り入れハワイ全島の民衆に団結を促すプロテスト・ソング「E Nā Kini」のコーラスの繰り返し部分はこう歌う。
I ka lawe, lawe a lilo
I ka pono, pono a mau
Paio nō ka pono ē, e nā kini o ka ʻāina
I ka lawe, lawe a lilo
I ka pono, pono a mau
Ua mau ke ea o ka ʻāina i ka pono
手に入れる、取り返す
権利を、永遠の権利
権利のために戦う、この地の民衆よ
手に入れる、取り返す
権利を、永遠の権利
大地の命は正義のもとに永続する
グラミー受賞ハワイアン・シンガー、カラニ・ペアが歌う「E Nā Kini」
伝説のハワイアン・シンガー、イズラエル・カマカヴィヴォオレの「Hawaiʻi 78」にも、カメハメハ三世の言葉が繰り返し歌われる。
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よしみ Nui だいすけDaisuke Yoshimi担当講師
【インタビュー動画あり】 1967年2月9日生まれ、神奈川県横須賀出身。1991 年よりハワイ在住。ハワイ大学卒業。フラ、ハワイ音楽に傾倒するハワイ・スペシャリストとして、ハワイを拠点に執筆・コーディネート活動を行う。ハワイのクムフラやミュージシャンとの親交も幅広い。フラダンサーとして、メリー・モナーク、キング・カメハメハの大会出場経験あり。著書に『たくさんのメレから集めた言葉たち』シリーズ、『LIVE ALOHA~アロハに生きるハワイアンの教え』がある。近年、フラダンサーを対象とした日本での講演・セミナー活動に力を入れている。
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