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2016.12.26

天文ー天体観測とその特徴

天文ー天体観測とその特徴

伝統文化と星空観察

ハワイの見どころのひとつに星空があります。夜空を埋めつくす星の数は肉眼では数え切れないほどあり、たとえばさそり座のような星座も、夏の夜が更けて星のすべてが出現する前に確認しないと、星の位置がわかりにくくなるほどです。天の川にいたっては、肉眼では見分けがつかないほど密集し、白い帯のようになります。

マウナケアやマウナロアなどの高地は、先住のハワイ人たちにとって聖地でした。天空は神々の住みたもう場所であり、高山の頂はそこに最も近い、神聖な場所とされました。いまも伝統文化を継承するカフナ(祈祷師)が山頂を訪れ、これらの聖地を守り続けています。

世界中に星にまつわる神話があるように、ハワイ諸島にも星の神話があります。しかし、意外にもファンタジックな物語より、科学的な伝承が多いのです。その背景には、先住のハワイ人たちの、星に関する深い理解がありました。

遠い昔、タヒチやマルケサス諸島から小さなカヌーに乗ってハワイ諸島へやって来たポリネシア人たちは、スターナビゲーションと言って、北極星(ホクパア)やすばる星団(マカリイ)などを目印にして航海を行いました。ハワイ諸島は周囲を広大な海に囲まれています。長距離の航海の際に自分たちの現在位置を知るにあたり、星の観察はとても重要でした。彼らは航海中、水平線上に腕を伸ばし、指先に特定の星が来るようにしました。指を開いて星と星とがどのような位置関係にあるかを確認して、現在位置を割り出す目安としたのです。この他に、海流や水温、風、渡り鳥などを活用し、数千キロメートルに及ぶ長距離航海においても、ほぼ正確な位置を割り出すことができました。ハワイを含む太平洋の島々は、遠い昔から天体観測を重要な文化として高度に発達させたのでした。

ホクレア

今日の天体観測

ハワイ諸島のなかでもひときわ高い山を抱くハワイ島とマウイ島。2つの島には多くの天文台が設置され、宇宙の神秘を観察する場所となっています。なかでもマウナケア山頂直下に設置された世界各国の巨大望遠鏡は、最先端の技術を駆使して未知の情報を探索しています。マウナケアは、チリのアタカマ高地とともに世界を代表する天体観測地と言って良いでしょう。

ハワイ島の中央北部に位置するマウナケアと、南に位置するマウナロアの北東側には、1800から1900メートルほどの高度にいつも雲海が広がります。北東方面から湿った風を運ぶ貿易風が造り出したものです。そのため、それより上では晴天率が高いのです。ただし、山頂付近は風が強く、過去には風速70メートルの暴風を記録したこともあります。しかし、乾燥した空気と、強風によって大気中に浮遊する塵などを吹き払ってくれるため、天空には見通しの良い視界が確保されます。

天体観測を行うには晴天率が高いだけでなく、大気が安定していることも大切です。星が瞬くのは美しく感じられますが、これは大気の乱れによるものですから、超高性能の天体望遠鏡では大きな障害となります。マウナケアの標高は4200メートルを超えるので、空気が薄く、星の光りを受け取りやすいというメリットもあります。

ただし、山頂のコンディションがどれほど良くても、山麓に都市があると、町の明かりが干渉して夜空が十分に暗くなりません。しかし、ハワイ島には大きな町がなく、最大の町であるヒロも雲海の下にあることが多いので、地上光の影響を受けることはほとんどないのです。ヒロの町は夜に消灯する建物が多く、街灯にはオレンジ色を使用するなどして、天体観測に与える影響を極力小さくしています。また、山頂までは車道があり、アクセスも悪くありません。

このようにマウナケアは天体観測に要求される条件の多くを満たしているため、世界各国が競ってここに天文台を建設してきました。1960年代から始まった天文台の建設の結果、今日では13もの天文台が稼働中か建設中です。

ハワイ諸島は地球上でもっとも多くの星空を観察できること(天空視野カバー率)で知られています。1年を通じて全天の80パーセントを観察できるとともに、北極星と南十字星を観察できる世界でもまれな場所です。

しかし、良い話ばかりではありません。安定した貿易風のおかげで高所の晴天が約束されていたマウナケアの山頂付近は、わずかながら晴天率が減少の傾向にあります。絶海の孤島であり、大陸や他島の影響を受けにくいハワイ諸島も、世界的な気象変動の影響から免れることはできません。また、多くの巨大望遠鏡がひしめくことは、先住のハワイ人にとっては許容しがたいことでもあります。科学と文化が互いを認め合う接点作りも、天文学や望遠鏡事業に関わる人々にとっては、重要な事柄と言えるでしょう。

マウナケア山頂直下のすばる望遠鏡

トップ画像はキラウエア・カルデラのなかで噴煙を上げるハレマウマウ・クレーターと天の川です。

  • 近藤 純夫
    Sumio Kondo
    担当講師

    エッセイスト、翻訳家。写真家。 ハワイ火山国立公園アドバイザリースタッフ。フラ・ミュージアム(スパ・リゾート・ハワイアンズ)アドバイザー。アロハ・カワラ版(パシフィック・リゾート)アドバイザー。国内外で各種のカルチャー講座を主催。ハワイ関連の著書に『フラの花100 』(平凡社)、『歩きたくなるHawaii』(亜紀書房)、『アロハ検定オフィシャル・ブック』(共著・ダイヤモンド社)、『フラの本』(講談社)、『ハワイアンガーデン』、『ハワイ・ブック』、『ハワイ・トレッキング』、『ハワイ諸島の自然』(以上、平凡社)、『おもしろハワイ学』(JTB)、『裏ハワイ読本』(共著、宝島社)など。訳書に『イザベラ・バードのハワイ紀行』(平凡社)、『ナショナル・ジオグラフィック 荒ぶる地球』(岩波書店)など。フェイスブックで毎日ハワイの小咄と写真を発信している。 「Facebook」https://www.facebook.com/kondo.sumio

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