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2016.01.01

スラック・キー・ギターの歴史


ハワイにいつギターは渡ったか

 

 スラック・キー・ギターのルーツを辿ると、ハワイにギターが伝来した時代まで遡ることになります。では、どの時代にギターがハワイに渡ったのか。ハワイにギターを持ち込んだのは19世紀にハワイにやってきたメキシカン・カウボーイたちだったと言われます。ハワイ語で「パニオロ[Paniolo]」(スペイン人を意味する英語のSpaniard、あるいはEspanolが語源)と呼ばれるようになったカウボーイたちは、ハワイアンにギターという楽器を紹介し、演奏の基本を教え、置き土産にしてメキシコに帰っていった。残されたギターを手にしたハワイアンは、この楽器で身体に染み込んだメレフラ(フラを踊る歌)の旋律とリズムを表現する手法を編み出していった。そのようにして生まれたのが、ハワイアンのフォーク・ミュージック「スラック・キー・ギター」だ、というのが通説です。

 「Hawaiian Music & Musicians - An Encyclopedic History」によると、ハワイにギターが伝来したのは遅くともメキシカン・カウボーイがハワイに渡った1832年、早ければそれよりも前にハワイにやって来た宣教師や捕鯨船員としてハワイに立ち寄ったニューイングランドの人たちによって持ち込まれた可能性がある、と書かれています。ちなみにニューイングランドでギターが販売されていたことを示すもっとも古い記録は1782年の広告ということで、18世紀の終わりから19世紀のはじめにはハワイにギターが渡っていた可能性があるというわけです。

 

 いずれにしても、1860年代になるとホノルルでもギターが一般的になっていました。カラカウア王はじめ、王家の人々もギターを気に入っていて、宮廷が奨励し始めた新しいスタイルのフラに、パフやイプといいった伝統打楽器とともにギターが演奏に使われるようになったということです。チャントの歌のメロディーとフラの打楽器のリズムを取り入れたギター奏法は、このような状況から発達し洗練されていったようです。

 

スラック・キー・ギターの広がり

 

 初期の優れたスラック・キー・ギター奏者たちは、個々に独自のチューニングを編み出し、それを家系の秘伝として伝えるようになりました。そのように伝えられたチューニングが広く外に向けて公開されるようになったのは、1970年代以降のことでした。サーフィンの広がりにデューク・カハナモクの存在があったのと同じように、スラック・キー・ギターにはギャビー・パヒヌイという伝説的なハワイアン・ミュージシャンが存在しました。70年代に彼が残したレコーディングと同時代の幅広いアーティストたちへの影響によって、スラック・キー・ギターは国際的なファンを獲得しました。ハワイアンのオハナ単位で楽しまれ伝えられたフォーク・ミュージックは、その歩みを新たなステージへと進めたのでした。ハワイアンの民族意識の高まりと文化的な原点回帰の時代となった70年代のハワイアン・ルネッサンス・ムーブメントとも重なり、スラック・キー・ギターは再発見されたのです。

 

 ギャビー・パヒヌイの存在によって人気が高まったスラック・キー・ギターを、さらに広める役割を果たした重要な存在に「Dancing Cat Records」というレーベルがありました。80年代から90年代にかけてシリル・パヒヌイ、サニー・チリングワース、レイ・カーネ、レオナルド・クワン、ケオラ・ビーマー、レッドワード・カアパナなど、スラック・キー・ギターの代表的プレイヤーたちを次々にレコーディングして、優れたギター・インストゥルメンタル・ミュージックとしてのスラック・キー・ギターを広めることに貢献しました。

 

 21世紀に入って、米本土ではスラック・キー・ギター人気にさらなる拍車がかかりました。引き金になったのはグラミー賞です。2005年に新設されたカテゴリー、ベスト・ハワイアン・ミュージック・アルバム賞に、4年連続でスラック・キー・ギター・アーティストが受賞したのです。

 

 

 

この章のポイント

  • ハワイにギターが渡ったのは19世紀
  • 王室奨励のフラの伴奏楽器として使われるようになった
  • スラック・キー・ギターのレジェンド、ギャビー・パヒヌイ
  • Dancing Cat Recordsがスラック・キー・ギター・ミュージックに貢献
  • グラミー賞受賞で米本土の人気高まる
  • よしみ Nui だいすけ
    Daisuke Yoshimi
    担当講師

    【インタビュー動画あり】 1967年2月9日生まれ、神奈川県横須賀出身。1991 年よりハワイ在住。ハワイ大学卒業。フラ、ハワイ音楽に傾倒するハワイ・スペシャリストとして、ハワイを拠点に執筆・コーディネート活動を行う。ハワイのクムフラやミュージシャンとの親交も幅広い。フラダンサーとして、メリー・モナーク、キング・カメハメハの大会出場経験あり。著書に『たくさんのメレから集めた言葉たち』シリーズ、『LIVE ALOHA~アロハに生きるハワイアンの教え』がある。近年、フラダンサーを対象とした日本での講演・セミナー活動に力を入れている。
    facebook: https://www.facebook.com/NuiDaisuke
    公式HP: http://www.yoshimidaisuke.com/

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