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2020.11.27

ハワイの神像

ここがポイント

ティキTikiはハワイ語ではなくマオリ語。ハワイでは代わりにキイKii、神像はアクア・キイとなる。
キイはきわめて神聖だが、1819年の宗教改革の後に打ち捨てられ、海外に持ち出されたキイも多かった。

ハワイの神像、アクア・キイ
 

神像を意味するティキTikiという言葉は、ハワイ語ではなく、実はニュージーランドのマオリ族の言葉。ハワイ語ではTの代わりにKが使われるため、キイKiiと呼ぶのが正解です。もっともキイやティキは人を模した像全般のことなので、神像は厳密にはアクア・キイ(アクア=ハワイ語で神)。便宜上、ここでは神像をキイと記していきます。

古代ハワイでは木製のキイのほか、石製、羽毛製、珍しいものでは珊瑚やウニの棘に彫られたものがありました。大きなヘイアウには
10体前後の木彫りのキイがそびえ、特に戦いの神クーを祀るヘイアウの中央に立つキイはアクア・ヘイアウと呼ばれ、けた違いの崇拝を受けたそうです。


Photo Courtesy of Hawaii State Archives

アクア・ヘイアウを作る作業は、材料となる木を切り倒す段階から人身御供が捧げられる重々しいものでした。19世紀のハワイアン歴史家、デビッド・マロによれば、クーのためのヘイアウを建てる際はまず酋長がカフナとともに森に入り、アクア・ヘイアウ用のよい木が見つかると豚や魚、椰子の実、バナナなどの供物を木に捧げました。

その場でキイが作成される間にも神のために祝宴を開き、完成したキイがヘイアウに建立される際も含め、計3人の人身御供が捧げられたそうです。つまりヘイアウを代表するキイは、その制作からして神事だったわけです。

一方、クーと同じ四大神のなかでも、平和と豊穣の神ロノを祀るヘイアウのキイには人身御供を捧げないなど、祀る神によってもキイ制作時のプロセスは異なっていました。
 

ハワイだけで作られた羽毛のキイも


またポリネシアの中でもハワイ独自のキイとして、羽毛のキイがあります。草で編んだ網状の土台に鳥の羽を結んでいく羽毛工芸は、ハワイが誇る芸術の1つ。希少な鳥の羽を使い、大変な手間をかけて作る羽毛のケープやヘルメット、レイなどは王族しか身に付けられなかったごく特別なものでした。そのヘルメット作りの技術を応用して作られたのが、羽毛のキイです。

現在、19体の羽毛のキイの記録がビショップ博物館に残りますが、有名なものではカメハメハ大王の戦いの神、クーカイリモクのキイがあります。カメハメハ大王が戦場に赴く際には必ず、カフナ(神官)がこの羽毛のキイを掲げて付き添ったとのこと。史上名高いカメハメハ大王の赤い羽毛のキイは今、ホノルルのビショップ博物館が所有しています(ただしカラカウア王の著述によればカメハメハ大王のキイは黄色い羽根でできていたとのことで、この点については諸説があります)。


カメハメハ大王の所有物といわれるクーカイリモクの羽毛の像。口には犬の歯がはめられている。
ビショップ博物館の展示より


こうして古代ハワイで神聖視され、膨大な数が作られていたはずのキイですが、今では残念ながらほとんど残っていません。カメハメハ大王が死去した1819年、ハワイで宗教改革が起こり、カメハメハ2世が古来の神々の崇拝を禁止。数多くのキイがヘイアウもろとも破壊されてしまったからです。その際、カフナ(神官)や庶民がこっそり隠し守ったごく一部のキイが、ビショップ博物館などに展示されているというわけです。それらの説明書きを見ると溶岩トンネルや洞窟、タロイモ畑の地中、川底から見つかったキイが多く、前述のカメハメハ大王の羽毛のキイもハワイ島コハラ地区の洞窟から発見されています。

外国船によって持ち出されたキイも多かった。Photo Courtesy of Hawaii State Archives

さらには運よく宗教改革を生き延びたキイでも、ハワイ外に持ち出されたものが多々ありました。羽毛のキイにしても記録に残る19体のうち、英国博物館が5体所蔵する一方で、ビショップ博物館に残るのはわずか2体。またヘイアウに置かれていた大きな木彫りのクーのキイは現在、世界に3体あり、ビショップ博物館、英国博物館、マサチューセッツのピーボディ・エセックス博物館が1体づつ所有しています。


世界に3体残るクーのキイの1つ。ビショップ博物館の展示より

2010年にはイギリスとマサチューセッツからキイが一時的にハワイに帰還し、ビショップ博物館に3体が集合。その際、2体のキイは厳かな儀式をもって博物館に迎えられ、再びビショップ博物館を離れる際には、人々が泣きながら見送ったとのことです。

余談ですが、アメリカで1930年代、南国風の調度や装飾をテーマにしたティキ・カルチャーと呼ばれる流行が生まれ、ティキ(キイ)を模したグラスや置物が人気を集めました。その流れを汲んで今なお南国風のティキバーやティキの置物が人気ですが、これまで述べてきたように、ハワイにおけるキイは大変、神聖なものです。ハワイ文化上の「キイ」とティキ・カルチャーにおける「ティキ」の本質は全く別ものであること、ぜひ理解いただきたいと思います。
 

  • 森出 じゅん
    Jun Moride
    担当講師

    【インタビュー動画あり】
    オアフ島ホノルル在住。横浜出身。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。フリーランスのジャーナリストとして活動する傍ら、ハワイの文化や歴史、神話・伝説、民間伝承を研究中。単に「美しいハワイ」にとどまらないハワイの奥深い魅力、真の姿を日本に発信すべく、執筆を続ける。イオラニ宮殿日本語ドーセント(水曜日担当)も務める。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニー・マガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)、「やさしくひも解くハワイ神話」(フィルムアート社刊)がある。
    森出じゅんのハワイ不思議生活 http://blog.goo.ne.jp/moridealex

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