ハワイ神話に登場する数々の天国とは？

• ハワイ神話上の天国は時に理想郷、ハワイアンの故郷としても描かれている。
• 天国として宙に浮く12の島々が知られる。

空中に浮かぶ島々がハワイの天国 
ハワイ神話や古いチャント(詠唱)には、ハワイの神々が住まう天国や楽園がたびたび登場します。天国で神はカヴァ酒を呑み、地上の憂いとは無縁に、平和に暮らしているとか。日本神話の高天原や常世の国、ギリシャ神話のオリンポスのハワイ版といったところですが、ハワイでは神々の住まう天国が、宙に浮かぶ島々とされている点がユニークです。
 

ハワイアンの天国は時に理想郷やハワイアン民族の故郷としても描写され、一般に｢神々に隠された島｣｢失われた島｣｢転がる島｣などと呼ばれます。
 

12の聖なる島々があるとされ、うちパリウリ(ハワイ語で緑の崖の意味)、カネフナモク(隠されたカネの島)、ウルカア(実をつけないブレッドフルーツ)、ケアロヒラニ(輝ける天国)、クアイヘラニ(天国を支える国)、ヌウメアラニ(天国の神聖な至上の地)などが、よく知られています。
 

位置的に島々はハワイのすぐ近くにあり、ふだんは空中に浮いていますが、神々の意思によって自在に移動が可能とか。そのため、海の彼方に浮かんでいることもあれば、海中に沈んでいることも。ハワイの陸地のすぐ近くまで寄ってきたり、人々の頭上近くを通過することもあるとのことです。
 

これらの島々はふだん人間の目には見えませんが、夜明けや夕暮れ時など、水平線の彼方にうっすら見えることもあるそう。とはいえあまりに神聖なので、もし見えても長い間凝視したり、指差したりするのはタブー視されています。
 

天国から降りた神々が暮らす地として、カネ神とカナロア神が選んだ地上の楽園もある(神話｢ケアオメレメレ｣に登場)。オアフ島ホノルル･ヌウアヌにあるワオラニ渓谷(現オアフ･カントリークラブ)だ

美女ライエイカヴァイが暮らした天国は？
12の島々のうち、チャント(詠唱)や神話にたびたび登場する島の一つにパリウリがあります。絶世の美女、ライエイカヴァイの神話で、ライエイカヴァイが育まれた理想郷がパリウリでした。同じく金色の雲の女神、ケアロメレメレの物語でも、その姉パリウリの暮らす天国として登場します。
 

ケアロメレメレの神話ではほかに、いくつもの天国が舞台になっています。ケアロメレメレの両親である神クーと女神ヒナの暮らす天国がクアイヘラニ、ケアロメレメレの暮らした天国がケアロヒラニ、トカゲの女神モオイナネアの暮らした天国がヌウメアラニ、カネフナモクといった具合です。
 

最後のカネフナモクについては、ハワイ神話研究の第一人者、マーサ･べックウィズ著の｢ハワイ神話｣(1940年刊)に詳しく記述されています。ハワイ語で｢隠されたカネの島｣を意味するカネフナモクは、この世とあの世の中間にある島。四大神のカネ神とカナロア神の一族が暮らしているそうです。
 

ハワイ文化の大御所、故メリー･カヴェナ･プクイ女史は子供時代、カネフナモクについてこんな話を祖母から聞いたとか。｢カネフナモクが頭上を通過する時には、ニワトリや豚の鳴き声が聞こえたり、チラチラする光、風にたなびく砂糖きび、島を動き回る人が見える｣。天上の一人の老女は島の守護者で、招かれることなく島に足を踏み入れようとする人を退治するため、道具を手にしているそうです。島には、不老不死の水を湛えた泉も。何やら竹取物語の、月からの使者達をのせた雲の降臨を彷彿とさせる描写です。
 

ちなみに聖なる島々の名は神話･伝説の世界にとどまらず、今やハワイ各地の地名ともなっています。たとえばパリウリがよい例でしょう。ハワイ島プナやマウイ島ハナ、ニイハウ島、オアフ島ワイケレなどに、パリウリという地名が存在します。